窓を閉めていても強いタバコ臭が点検口(天井裏)から自室に侵入する疑い。
僕は保健所に電話をした。返ってきた答えはある意味で予想通りだった。
「共用部ではなく、個室内の喫煙については、健康増進法の枠組みでは介入できません」。
つまり、行政が他室の専有部内での喫煙に直接介入してくれる道は、ほぼ閉ざされていた。
しかし、AIに相談する過程で、僕の中では問題の見え方が変わり始めていた。
「単に誰かがタバコを吸っていることだけが問題なのだろうか」。
「問題なのは、他室で発生したはずの煙や臭気が、なぜ僕の部屋に入り込んでくるのか、という点ではないのか」。
問題の軸は、喫煙という個人の嗜好から、建物設備の不具合の疑いへと徐々に移り変わっていた。
僕は「住まいるダイヤル」へと電話をかけた。
住まいるダイヤルは、住まいに関するトラブルやリフォーム、住宅の不具合などについて相談できる公的な相談窓口だ。
電話相談では、建築士などの専門家から助言を受けることができる。
僕はこれまで分かったことを伝えた。
自室で窓を閉め、換気扇も閉じている状態で強い異臭が毎日長時間すること。
点検口の中からタバコのような臭いがすること。
浴室換気扇を回すと、点検口内の臭いが強まること。
給気口や窓を開けると症状が少し軽くなること。
点検口を養生テープで塞ぐと、体調がやや改善すること。
それらを伝えると、相談員から返ってきた答えは明快だった。
「まずは空調・換気の点検業者に見てもらい、原因を特定するのがよいですね」
やはり、見るべきは喫煙者ではなく、建物の中の空気の通り道だった。
僕とAIは大家に渡すための「点検依頼書」を作成した。
概要は「異臭が建物内部・換気経路・点検口周辺から自室に流入している疑いがあるため、専門業者に原因特定をしてほしい」というもの。
住まいるダイヤルで「まずは専門業者に点検を」との助言も受けたこと。
その書類は、喫煙マナーへの苦情文ではなく、「建物設備として、換気経路・点検口・天井裏・ダクト周りを点検してほしい」という原因特定の依頼書だった。
2月19日。 僕は大家と対面して点検依頼書を渡した。
しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。
「うーん、点検業者なんてこれまで呼んだことがないから、どうしたらいいか……」
それから数日待ったが、大家から音沙汰はなかった。
僕は、間に入っていた仲介業者、つまり不動産会社へ連絡した。
大家に伝えた内容。点検依頼書の概要、そして依頼書そのものをメールに添付し、
「大家さんが業者の手配に困っているので、サポートして頂けませんか」とお願いした。
不動産会社からの返事はこうだった。
「まずは大家自身が現地で匂いを確認してから、業者への依頼を検討するそうです」
さすがに意味が分からなかった。
僕は次のことを不動産に伝えた。
「異臭はいつ発生するか分からず、特に深夜に及ぶことが多いこと。
その時間帯に大家が私の自室に立ち会われることおよび、その際に匂いが確実に再現発生するかは不確実。
であるからして、早期に専門知識のある空調業者の手配を点検を依頼している。
他の住人が喫煙をしていることは問題ではなく、「他室の異臭が、本来通るべきではないルート(壁体内や点検口)を通って自室に侵入している」という 「建物の構造欠陥や設備不良の”疑い”があること。
それにより、こちらに健康被害が出ていて、使用収益にとても満たない状況である点であること。
「 貸主が物件を使用・収益させ、借主がその対価(賃料)を支払う約束」
「使用収益させる義務(民法606条1項)」の上で契約が成り立っている」
…… 不動産からは、「下記件踏まえて大家さんに御連絡を入れておきます。」との短い返事があった。
翌日、大家から一本の電話がかかってきた。
「他の部屋の住人に『異臭がするから気をつけて』って言っておいたから。
今回はこれで様子を見てみてもらって。また何か匂いがしたら連絡して。」
僕は意表を突かれた。
こちらはすでに、他の住人の喫煙という嗜好やマナーを問題にしていなかった。
建物の問題として、点検を依頼していたのだ。
このアパートはあくまで禁煙物件では無い。
新たに入居者が入れば、「異臭に気を付けて」と伝えるのだろうか。
仮に注意喚起で臭いが一時的に緩和したとしても、それは根本解決にはならず、不安が残るだけだった。
大家の対応は、結局のところ「費用の問題」だったのだと思う。
僕はこの部屋に住み続けることの限界を感じて、AIに頼った転居先探しを始めた。
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