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4話.退避

3月中旬に一度緩和した匂い

2月以降、窓を閉めていても強く漂ってきた煙草のような異臭が続いていた。

どうやら建物内部を通って自室に入り込んでいるようで、大家に建物の点検を依頼したところ、

2月24日に「他住人へ注意喚起した。様子を見て、また匂うようなら連絡を」と返答があった。

当時の記録によると、臭いは3月9日まで続いていた。

換気のために給気口を開け、窓も少し開け、グルニエの小窓も開放した。

エアコンを切った部屋は深夜には外気温が10度以下となり、ひどく冷え込んだ。

それでも苦しかったのは寒さではなく臭いだった。

左首のリンパは腫れ、首肩の筋肉は強張り、頭痛が続いた。

まるで麻酔毒を塗った茨のついたネットを頭に被せられているような感覚を何度も覚えた。

3月7日頃から、ようやく匂いがやや緩和してきた。

しかしその頃、僕は身体を起こすことができず、1週間ほど寝たきりの生活になっていた。

3月12日頃からは、メンソール煙草のような臭いに代わり、酸っぱく据えたような匂いがすることが増えた。

タバコ臭ほど体調の悪化は強くなく、調べてみると電子タバコの臭いの特徴に似ていた。

ただし、以前からのメンソール煙草のような臭いがする日もあった。

医師・大家への報告

3月15日、鬱病で通院しているクリニックの医師に、2月から続く異臭の影響で鬱症状が悪化していること、

3月初旬には寝たきりのような生活になっていたことを伝えた。

帰宅後、大家にも電話で次のように伝えた。

「暖かくなり窓を開ける季節になったこと、また大家の注意喚起もあってか、臭いは減ってきたように感じること。

代わりに電子タバコのような匂いがする日もあるが、以前のメンソール煙草の匂いがする日もあること。

3月初旬には寝たきりのような状態になったこと。」

そして「退去することも考えています」と告げた。

そのときの大家の声は、どこか弾んでいるように感じられた(あくまで主観だが)。

臭いの再発

3月16日〜20日頃には、電子タバコのような匂いが再びタバコ臭へと変わってきていた。

毎日なかなか起床できず、思考力が衰えていることを自覚していた。

転居を決意

理由はタバコ被害の再発だった。

少なくとも、あの2月の被害状況を再び耐えることはできない。

もちろん転居費用は大きな負担になる。

部屋はペット飼育可だが、WEB検索では「退去時に原状回復費用を20万円以上請求されることもある」との情報も見た。

「せめて退去時の追加請求だけは免除してほしい」

そんな考えが頭にあり、それが後の紛争のきっかけとなった。

転居先探し

2月〜4月は引越しシーズンで、良い物件は内覧前に契約が入ってしまう。

さらに僕の希望条件は特殊だった。

ペット可、2人入居可は必須。

加えて「RC造」「2003年以降築」という条件があり、募集物件はほとんどなかった。

※RC(鉄筋コンクリート)造:

コンクリート壁のため防火性・遮音性が高く、構造上隙間ができにくく気密性が高い。

2003年以降築….部屋の24時間換気が義務化されている。
僕にとっては、どちらも譲れない条件だった。 

面倒くさがりな僕は、膨大な物件検索をAIに任せたが、条件に合う物件は出てこなかった。

寧ろ「希望条件の物件はこの時期にはほぼ無い」ことを割らずけていた。

僕はやむなく転居の時期をずらすことにした。

部屋のタバコ臭は再発し、二月ほどではないにせよ、じわじわと体を蝕んだ。

猫のアキは時折ご飯を戻し、おかしなくしゃみをすることもあった。 

アキの体を抱き寄せたとき、タバコの匂いがした日は、 本当に惨めだった。

5月に入り、ようやく希望条件に合う物件が少しずつ増えてきた。
そして急遽、転居先が決まったのだった。

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